案件タイプ
両社の関係は2000年に突然始まったものではない。キヤノンアプテックスは3年前からニスカ株の28%を保有しており、追加取得は既存提携を支配関係へ進める段階だった。既保有分と追加分の合計が51%になるため、取引後の中心的な変化は全株取得ではなく、出資比率の過半を確保して連結範囲へ組み入れた点にある。
日本政策投資銀行の二つの付表は、この案件を公開買付けと第三者割当増資の双方に掲載している。出資比率の推移は2008年の公開買付開始発表と現在の公式沿革が根拠であるため、後年資料に記載された51%を2000年当時の公開買付けだけによる応募・取得割合と読み替えてはならない。これは複数手段を経た後の保有状態を示す数字であり、応募総数や公開買付け部分の買付株数そのものではない。
読みどころ
過半数取得には、ニスカの事業運営をキヤノンアプテックスの連結経営へ取り込む意味があったと読める。少数持分を残した51%という到達点からも、2000年時点の主眼は直ちに完全子会社化することより支配権を確立することだったと考えるのが自然である。ただし採用資料には統合効果の数値目標や製品別の相乗効果は示されておらず、具体的な経営成果までは評価できない。
2008年にはキヤノンファインテックが完全子会社化を目的とする別の公開買付けを発表し、公式沿革も同年の完全子会社化を記録している。これは2000年の取得が完全取得ではなかったことを裏側から示すが、8年後の手続を2000年取引の予定された最終段階とみなす資料はない。2000年は連結子会社化、2008年は完全子会社化という二段階で整理すると、時系列の誤解を避けられる。
1株当たりの買付価格、公表直前の市場価格、算定方法はいずれも確認できない。このためプレミアム率を推計したり、2008年の別の公開買付価格を代用して2000年の対価を評価したりすることは適切でない。判断できるのは持分が28%から51%へ動いたという資本関係の変化であり、価格の十分性は資料不足として留保する。
公開買付けに応募した株主の受取価格や、応募しなかった株主の流動性への影響は現存資料から判定できない。取引後も49%の少数持分が残った計算になるが、その株主構成や上場状況の変化を示す根拠も採用していない。2008年の完全子会社化は後の退出機会に関係するものの、その条件を2000年の株主選択へ遡及させないことが重要である。