案件タイプ
買付者は新規参入者ではなく、エスエス製薬と長年協調し、開始前から約5分の1を保有する筆頭株主だった。したがって本件は、未知の事業を外から奪う買収というより、既存の資本・事業関係を拒否権を持ち得る水準まで深める取引だった。対象会社が賛否を明示せず中立を選んだ点も、取締役会が正面から反対した昭栄案件とは異なる。
大衆薬はブランド認知、薬局への販売網、広告、製品改良を長期で積み上げる事業である。ドイツ側の研究開発・国際情報と、エスエス製薬の国内販売・大衆薬開発を組み合わせるという後年の共同説明は、持分拡大の産業上の方向性と整合する。ただし採用資料だけでは2000年時点の統合計画や費用削減目標を数量化できない。
読みどころ
35.86%という到達点は、経営権を単独で握る過半数には届かない一方、3分の1を超えることで重要な特別決議に影響できる水準だった。従前19.6%からの増加幅を考えると、2000年の狙いは全株取得より、戦略上無視できない拒否権的持分を確保することだったと評価できる。公開買付けが当初目標を上回ったという後年研究とも整合する。
翌年に持分が50.23%へ進み、厚生労働省の企業別表でもNBIとエスエス製薬が一体の企業群として扱われたことは、支配関係が段階的に強まった結果を示す。しかし2001年の追加取得方法と対価は今回の資料では分からず、前年と同じ公開買付条件が繰り返されたとは言えない。最初のTOBと過半数化を一件に合算しないことが重要である。
1株1,100円は直前株価775円を325円上回り、単純計算で約41.9%の上乗せとなる。市場価格より明確に高い退出価格だった一方、企業価値算定書、過去平均株価、業績予想を用いた評価幅は確認できない。4割強という数字は直前一日の価格に対する比較であり、長期ブランド価値に対して十分だったかを示すものではない。
応募株主は市場直前値を上回る1,100円で持分を現金化できた。応募しなかった株主は、買付者が35.86%を持ち、重要決議へ強い影響力を持つ資本構成の下に残った。翌年には過半数支配へ移ったが、その追加取得価格が1,100円と同じだった証拠はないため、2000年に応募した場合と残った場合の経済的優劣を後続の支配取得だけで断定できない。