案件タイプ
ジャムコは航空機内装を設計から製造まで担う専門企業で、旅客需要回復は受注機会を生む一方、部材の長納期、在庫資金、人員不足を同時に悪化させ得る。しかもコロナ期に弱った財務のまま増産投資を行う必要があり、主要銀行から借入圧縮計画も求められていた。需要回復がそのまま現金回収になるとは限らない点が資本再編の出発点だった。
TOB対象から外した約1,194万株は、株式併合後にジャムコが自己取得する前提だった。一般株主には1,800円、大株主にはみなし配当の税務効果を踏まえた別の自己取得価格を使うことで、少数株主向け価格と法人株主の手取りを両立させる構造である。公表から開始まで規制対応の時間を置き、実際の募集は20営業日で完了した。
読みどころ
ベインの施策で先に効くのは、売上拡大より運転資本と借入の管理である。航空内装は受注から納入までが長く、仕掛品と部材在庫が膨らみやすいため、案件別採算、在庫日数、前受金、納期遵守をKPIとして可視化しなければ、需要回復下でも資金が詰まる。借換えとEBITDA改善を組み合わせる計画は、この事業特性に対応したものといえる。
中長期ではギャレー、化粧室、座席を横断する提案力と、航空機器・整備まで含む顧客関係を伸ばせるかが焦点になる。非公開化は短期利益を圧迫する設備、人材、品質改善を進めやすくするが、航空機メーカーの認証、供給網、熟練人材は資金だけで代替できない。既存大株主が退出した後も航空会社・商社との取引関係を維持する統合設計が必要である。
1,800円の上乗せは直前終値に約27%、1か月平均に約21%で、半年平均には約32%だった。対象会社DCFの1,342〜2,447円では中央値を下回り、回復後利益の上振れ余地を全て価格化したとはいえない。他方、市場株価レンジを明確に超え、財務悪化と増産実行リスクを株主から切り離す現金対価でもある。公正意見がないため、レンジ内という事実だけで公正性を断定せず、再建リスク移転との交換条件として評価すべきである。
一般株主にとっては、航空需要回復による利益改善を待つ選択と、財務・供給制約を負わずに1,800円で換金する選択の比較だった。大株主3社が後段取引に合意していたため、TOB成立後に上場を維持する余地は小さく、応募しない場合も株式併合による金銭化へ進む設計だった。応募推奨はあるが、将来成長の取り分と価格の妥当性は別問題であり、DCF幅の広さが不確実性を表している。